BIS認証とは?日本企業がインド市場参入の信頼感を構築する第一歩
   |    2025-10-11

インド市場への進出や製品輸出を計画する日本企業にとって、BIS認証(Bureau of Indian Standards)の理解は避けて通れない重要なステップです。この認証は、インド国内で流通する製品の品質と安全性を保証するための国家規格であり、多くの製品カテゴリーで取得が義務付けられています。

本記事では、インドのBIS認証に関する基本概要、対象製品、具体的な取得プロセス、そして日本企業がビジネスチャンスを最大化するための実践的なポイントまで、網羅的に解説します。

▌BIS認証とは

インド市場への参入を検討する日本企業にとって、現地の法規制や認証制度への対応は避けて通れない重要な課題です。中でもBIS認証は、製品の品質と安全性を保証する国家的な証明であり、インドビジネスの成否を分ける鍵となります。

BIS認証とは、インドの国家規格機関であるインド標準規格局(Bureau of Indian Standards)が管轄する製品認証制度です。その根幹にある目的は、インド国内で流通する製品の品質、安全性、信頼性を確保し、消費者の健康や安全を守ることにあります。経済成長に伴う輸入品の増加を背景に、粗悪品や模倣品の流通を防ぐための重要な役割を担っており、1986年のBIS法、そして2016年の現行法によってその権限と適用範囲が強化されてきました。

認証を取得した製品には、指定された認証マーク(ISIマークやCRSマーク)の表示が許可され、これはインド市場における「品質の証」として広く認知されています。

14億人を超える巨大な人口を抱えるインド市場は、日本企業にとって計り知れない潜在力を持つ一方で、独自の商習慣や複雑な規制が存在します。特にBIS認証は、単なる手続きではなく、インド市場への参入許可証そのものです。強制認証の対象となる製品は、認証なくしてインドへの輸出、販売、製造が一切認められません。これは事実上の非関税障壁として機能しており、この「壁」を乗り越えることが、インドビジネスの第一歩となります。

さらに、認証取得は法的な義務を果たすだけでなく、以下のような戦略的価値を持ちます。

①信頼性の獲得: BISマークは、インドの消費者や取引先に対して、製品が国の定めた安全基準を満たしていることを示す強力な証明となります。

②競争優位性の構築: 品質意識が高まるインド市場において、認証は競合他社の製品との明確な差別化要因となり、商談を有利に進める武器となります。

③リスク回避: 認証未取得のまま製品を流通させた場合、罰金、製品の没収、さらには禁固刑といった厳しい罰則が科されるリスクがあります。

したがって、日本企業がインドで持続的なビジネスを展開するためには、BIS認証を単なるコストや手間と捉えるのではなく、市場からの信頼を勝ち取り、事業を安定させるための戦略的投資と位置づけることが不可欠です。

▌BIS認証の主要規格と適用製品

BIS認証制度は、製品の種類やリスクに応じて複数のスキーム(制度)に分かれています。自社製品がどのカテゴリに該当し、どのような義務を負うのかを正確に理解することが、認証プロセスをスムーズに進めるための第一歩です。

1.BIS認証対象となる主な製品ジャンル

BISの強制認証対象品目は、インド政府が発行する品質管理命令(QCO: Quality Control Orders)によって定められ、その範囲は年々拡大しています。日本企業が輸出する可能性のある主要な対象製品ジャンルは以下の通りです。

製品ジャンル具体的な製品例主な適用スキーム
電気・電子機器スマートフォン、ノートPC、テレビ、電源アダプター、LED照明、プリンター、電子レンジ、ワイヤレスキーボードCRS(強制登録スキーム)
工業製品・建材鉄鋼製品、各種セメント、一部の家庭用電気製品、バルブ、シリンダーISIマーク認証 (FMCS)
化学品特定の化学物質、肥料、ポリマー、繊維ISIマーク認証 (FMCS)
その他自動車部品(タイヤ、ホイールリム)、ガラス製品、食品包装材、玩具ISIマーク認証 (FMCS)
最新情報の確認: 対象品目は随時追加・変更されるため、事業計画の初期段階で必ずBIS公式サイトやJETRO(日本貿易振興機構)が提供する最新情報を確認することが重要です。

2025年以降、産業機械や電気機器の一部にも新たな認証制度(Scheme-X)の適用が予定されるなど、規制強化の動向を常に注視する必要があります。

2.強制認証&任意認証の違いと注意点

BIS認証には「強制認証」と「任意認証」の2種類が存在します。

  • 強制認証 (Compulsory Certification)

    • 定義: インド政府が国民の安全、健康、環境保護の観点から指定した製品に対し、法的に取得を義務付けている認証。

    • 特徴: 認証がなければインドでの製造、輸入、販売が一切禁止されます。違反した場合は厳しい罰則が科されます。

    • 対象: 上記の表で示した電気・電子機器、鉄鋼製品、化学品、玩具などが該当します。

  • 任意認証 (Voluntary Certification)

    • 定義: 強制認証の対象外の製品について、製造者が任意で取得できる認証。

    • 特徴: 法的義務はありませんが、取得することで製品の品質をアピールし、市場での信頼性を高めるマーケティングツールとして活用できます。

日本企業が最も注意すべきは、もちろん強制認証です。特に、電子・IT製品に適用されるCRS(Compulsory Registration Scheme)と、それ以外の工業製品などに適用されるFMCS(Foreign Manufacturers Certification Scheme)の2つのスキームが中心となります。

スキーム名正式名称主な対象特徴
CRSCompulsory Registration Scheme電子・IT機器

1.自己宣言ベースの登録制度

2.工場監査は原則不要

3.BIS認定ラボでの製品試験が必須

FMCSForeign Manufacturers Certification Scheme電子機器以外の工業製品、化学品など

1.ライセンス制度

2.インドから派遣される審査官による工場監査が必須

3.製品ごと、製造拠点ごとの認証が必要

自社製品がどちらのスキームに該当するかで、準備期間、コスト、手続きの複雑さが大きく異なるため、最初の段階で正確に特定することが極めて重要です。

▌BIS認証の取得方法と流れ

BIS認証の取得は、周到な準備と正確な手続きが求められるプロセスです。特に海外の製造業者にとっては、現地の代理人選定や書類準備など、特有の課題が存在します。

1.BIS認証取得の一般的なステップ

日本企業のような外国製造業者が認証を取得する場合、FMCS(外国製造業者認証スキーム)またはCRS(強制登録スキーム)のプロセスに従います。以下に、一般的な流れを示します。

①対象製品と適用規格の特定
自社製品が強制認証の対象か、どのスキーム(FMCS/CRS)とインド規格(IS)が適用されるかを確認します。

②現地代理人(AIR)の任命
インド国内に拠点を持たない外国製造業者は、認定インド代理人(Authorized Indian Representative: AIR)の任命が必須です。AIRはBISとの公式な連絡窓口となり、申請書類の提出から当局からの照会対応、認証後の管理まで重要な役割を担います。

③オンライン申請と書類準備
BISの公式オンラインポータル「Manakonline」でアカウントを作成し、申請を開始します。製品仕様書、図面、品質管理体制に関する文書、AIRの任命書など、多岐にわたる書類を英語で準備します。

④製品試験
製品サンプルをインドへ送り、BISが認定した国内の試験所で試験を実施します。他国で取得した認証(例:CEマーキング、UL認証)の試験結果は原則として認められません。

⑤工場監査(FMCSの場合)
ISIマークが要求されるFMCSの場合、BISの審査官が日本の製造工場を訪問し、製造プロセスや品質管理体制が規格に適合しているかを監査します。CRSの場合は、この工場監査は通常省略されます。

⑥審査と認証費用の支払い
提出された書類と試験報告書、工場監査の結果(FMCSの場合)を基にBISが審査を行います。申請料、監査料、年間ライセンス料などの費用を支払います。

⑦ライセンス発行とマーキング
すべての審査を通過すると、BISから認証ライセンス(証明書)が発行されます。これを受けて、製品に規定されたBISマーク(ISIマークまたはCRSマーク)を表示し、インドへ輸出できるようになります。

2.日本企業向けの注意ポイント

①現地代理人(AIR)の選定は最重要課題: AIRは単なる連絡窓口ではありません。規制に関する知識、BISとのコミュニケーション能力、誠実さを兼ね備えたパートナーを選ぶことが、認証取得の成否を大きく左右します。契約内容を十分に精査し、責任範囲を明確にしておくことが重要です。

②書類の完全性と正確性: 提出書類はすべて英語で、些細な記載ミスや不備も審査遅延の原因となります。特に製品の部品リストや製造工程フローチャートなど、技術的な文書は正確さが求められます。専門コンサルタントの活用も有効な選択肢です。

③十分な準備期間の確保: 申請から認証取得までの期間は、CRSで平均6ヶ月程度、工場監査を伴うFMCSではそれ以上かかることが一般的です。書類の不備や問い合わせへの対応が遅れれば、さらに長期化する可能性があります。事業計画には十分なバッファを盛り込むべきです。

④工場監査への万全な準備(FMCS): 日本の品質管理レベルは高いとされていますが、BISの監査はインド規格(IS)に基づいて行われます。規格で要求される記録や管理手順が整備されているか、事前に内部監査を実施し、万全の体制で臨む必要があります。

BIS認証の申請プロセスは、近年デジタル化が大きく進展しています。現在、ほとんどの申請はBISの公式オンラインポータル「Manakonline」を通じて行われます。これにより、申請状況の追跡やBISからの照会への迅速な対応が可能になりました。特にCRSスキームでは、2019年に「Smart Registration」と呼ばれるモバイル対応の登録プロセスが導入され、手続きのペーパーレス化と簡素化が進んでいます。

このようなデジタル化は利便性を向上させる一方で、オンラインシステム特有のトラブルや、迅速なオンラインでの応答が求められるといった新たな課題も生んでいます。最新の運用状況については、BIS公式サイトや専門コンサルタントを通じて常に情報をアップデートすることが賢明です。

▌インド×日本市場|ビジネス拡大のための実践ポイント

BIS認証は、規制上の義務であると同時に、インド市場でビジネスを成功させるための強力な武器にもなります。認証取得を戦略的に活用することで、日本企業は大きなビジネスチャンスを掴むことができます。

BIS認証は、インドのバイヤーや消費者に対する「信頼のパスポート」です。これを取得することで、日本企業は以下の取引拡大チャンスを創出できます。

✅絶対的な市場参入資格の獲得
強制認証対象品目を扱う多くの入札案件や、大手企業との取引において、BIS認証は参加の前提条件となります。認証がなければ、商談のテーブルにすら着くことができません。認証取得は、広範なビジネス機会への扉を開く第一歩です。

✅「Made in Japan」の品質を客観的に証明
日本製品の品質は世界的に評価されていますが、インド市場ではその価値を客観的な指標で示すことが重要です。BIS認証は、インドの国家基準を満たした安全な製品であることを公的に証明するものであり、「高品質」という抽象的なアピールを、具体的で揺るぎない信頼へと変えます。商談の際には、製品の機能や価格だけでなく、「BIS認証取得済み」であることを明確に伝え、認証証明書を提示しましょう。これにより、バイヤーは安心して取引を進めることができます。また、製品カタログ、ウェブサイト、パッケージなどにBIS認証マークを明記し、品質と安全性へのコミットメントを積極的にアピールすることも有効です。

✅価格競争からの脱却とブランド価値の向上
インド市場には、価格の安さを武器にする国内外の製品が数多く存在します。BIS認証を取得し、その安全性を明確にアピールすることで、安価な非認証製品との差別化を図り、価格競争から一線を画すことが可能になります。これは、製品のブランド価値を高め、長期的な収益性を確保する上で極めて有効です。

▌よくある質問(FAQs)

Q1: BIS認証の難易度や取得期間は?

難易度は製品と適用スキームによって異なります。工場監査が不要なCRS(電子・IT機器)は、FMCSに比べて手続きが比較的簡素です。一方、工場監査が必須のFMCS(工業製品など)は、準備に多くの時間と労力を要します。 取得期間の目安は以下の通りです。 書類の不備や試験の遅れは期間延長の主因となるため、計画的な準備が不可欠です。

Q2: 認証が取得できない(審査に落ちた)場合の対策は?

認証が取得できない場合、BISから不適合となった理由(例:試験結果の不備、書類の不一致、工場監査での指摘事項など)が通知されます。対策は、その理由に応じて異なります。 いずれの場合も、不合格の根本原因を正確に分析し、確実に対応することが重要です。専門コンサルタントに相談し、原因究明と対策立案の支援を求めることも有効です。

Q3: 自社製品がBIS認証の対象か、どこで確認できますか?

公的機関のウェブサイトで確認するのが最も確実です。 対象品目は頻繁に更新されるため、定期的な確認を強く推奨します。

Q4: 申請書類や製品マニュアルは日本語でも大丈夫ですか?

いいえ、原則としてすべて英語での対応が必要です。 日本語の技術文書やマニュアルは、正確に翻訳して提出する必要があります。翻訳の品質が審査に影響することもあるため、技術的な内容を正確に理解できる翻訳者や翻訳会社に依頼することが重要です。

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