アメリカ免税州一覧と日本企業海外展開での注意点
   |    2025-06-26

▌アメリカ免税制度の特徴

アメリカでのビジネスを考える上で、まず押さえるべきは「連邦レベルの消費税は存在しない」という事実です。税制は州の権限に委ねられており、これがアメリカ免税州が存在する大きな理由です。

1. アメリカで消費税のない州の全体像と法的背景

2025年現在、州レベルでの一般売上税(Sales Tax)を課していない州は、以下の5つです。これらの州は、頭文字をとって「NOMAD」州と呼ばれることもあります。

  • New Hampshire(ニューハンプシャー州)

  • Oregon(オレゴン州)

  • Montana(モンタナ州)

  • Alaska(アラスカ州)

  • Delaware(デラウェア州)

注意点しなければならないのは、「州レベルで」免税という点です。例えばアラスカ州では、州税はありませんが多くの市や郡が独自の地方売上税を課しています。したがって、「アラスカ州=完全に非課税」ではないため、取引先の具体的な所在地を確認することが不可欠です。

法的背景には、アメリカが持つ合衆国としての成り立ちが深く関わっています。各州が強い独立性と自治権を持っており、州の財政をどのように賄うか(所得税、固定資産税、売上税など)を独自に決定できるのです。

2. 州ごとの税制の違いと免税州が生まれる理由

アメリカの税制を理解する上で、売上税(Sales Tax)と使用税(Use Tax)の違いを知っておく必要があります。

税の種類概要
売上税 (Sales Tax)商品やサービスが最終消費者に販売される際に課される税金。事業者は消費者から税金を徴収し、州に納付する義務を負います。B2B取引における再販目的の仕入れでは、通常「再販許可証」を提示することで免除されます。
使用税 (Use Tax)売上税が課されていない商品やサービスを、売上税のある州に持ち込んで使用・消費する際に課される税金。例えば、免税州のオレゴン州でPCを購入し、売上税のあるカリフォルニア州のオフィスで使用する場合、購入者はカリフォルニア州に使用税を納める義務が発生します。

免税州が生まれる理由は、各州の経済戦略と歴史的背景にあります。

  • 経済戦略: 売上税をゼロにすることで、他州からの買い物客や企業を誘致し、経済を活性化させる狙いがあります。EC事業の物流拠点としてオレゴン州が人気なのは、この典型例です。

  • 代替財源: 売上税がない分、他の税金で歳入を補っています。例えば、オレゴン州は所得税率が全米でも高い水準にあり、デラウェア州は法人登記の多さを背景に、企業の売上総収入に対して課税しています。

  • 政治・文化的背景:ニューハンプシャー州の「Live Free or Die(自由に生きる、さもなくば死を)」というモットーに象徴されるように、政府の介入を最小限にしようとする文化が、低い税負担を維持する力になっています。

▌アメリカ免税州一覧と、B2B取引における注意点

1. 概要と事例

5つの免税州は、それぞれ異なる特徴を持っています。B2Bビジネスの観点から、その違いを理解しておくことが重要です。

州名特徴とビジネス上のポイント
アラスカ州 (Alaska)州売上税はなし。しかし、多くの地方自治体が独自の売上税を導入。原油収入が主な財源。EC事業者は、販売先の地方税の有無を個別に確認する必要があり、注意が必要。
デラウェア州 (Delaware)州・地方ともに売上税がゼロ。法人設立に非常に有利な会社法で知られ、多くの大企業が登記上の本社を置く。売上税の代わりに「総所得税(Gross Receipts Tax)」が存在する。
モンタナ州 (Montana)州売上税はなし。ただし、一部のリゾート地では宿泊や飲食に地方税が課されることがある。観光業が主要産業。
ニューハンプシャー州 (New Hampshire)売上税と個人所得税の両方がない。事業活動税や固定資産税が主な財源。マサチューセッツ州など近隣からの移住者や企業を惹きつけている。
オレゴン州 (Oregon)州・地方ともに売上税がゼロ。西海岸に位置し、物流の利便性が高いことから、EC企業の倉庫や物流拠点として非常に人気。ただし、個人・法人所得税率は高め。

2. 免税州での取引実務(販売・仕入れ・納税)のポイント

免税州での取引は一見シンプルに見えますが、落とし穴も存在します。

  • 販売: 免税州に拠点を置き、顧客も同じ免税州内にいる場合、売上税の徴収・申告は不要です。業務は非常にシンプルになります。

  • 仕入れ: 再販目的の仕入れは、そもそも売上税が免除されるケースが多いですが、免税州で仕入れることで「再販許可証」の提示といった手続きが不要になる場合があります。ただし、自社で消費する備品などを免税州で購入し、売上税のある州の拠点で使う場合は、前述の使用税(Use Tax)の申告・納税義務が生じることを忘れてはいけません。

  • 納税の罠「ネクサス」: 最も注意すべきなのが、この「ネクサス(Nexus)」という概念です。これは「納税義務が発生する関連性」を意味します。たとえ自社の拠点が免税州にあっても、他の州の顧客との取引が一定の基準を超えると、その州で売上税を徴収・納税する義務が発生するのです。

この「ネクサス」こそが、多くの中小B2B企業が直面する最大の課題です。次のセクションで詳しく掘り下げます。

▌海外B2Bビジネス戦略とリスク管理

1. 免税州拠点設立・B2B取引のメリットとリスク

メリットリスク
価格競争力最終価格に売上税が上乗せされないため、特にECなどでは価格競争で優位に立てる。他の州での経済的ネクサスが成立すると、結局その州の税金を徴収・納付する義務が生じ、価格メリットが相殺される可能性がある。
管理コスト拠点がある免税州内での取引に限れば、売上税の計算、徴収、申告といった複雑な事務作業から解放される。複数の州と取引する場合、州ごとの売上や取引件数を正確に追跡・管理する必要があり、かえって管理が複雑化する可能性がある。
法人税等デラウェア州のように、会社法が有利で法人設立に適した州を選択できる。売上税がない分、所得税や固定資産税、総所得税などが高く設定されている場合があり、トータルでの税負担を考慮する必要がある。
コンプライアンス-ネクサスのルールを正しく理解せず納税を怠った場合、州税務当局による監査や追徴課税、罰金といった重大なリスクに繋がる。

2. 州をまたぐ取引での課税問題

リスクの項目で何度も登場した「ネクサス」には、主に2つの種類があります。

物理的ネクサス (Physical Nexus): 州内にオフィス、倉庫、従業員などの物理的な拠点がある場合に成立します。例えば、Amazon FBAの倉庫に商品を保管しているだけでも、その倉庫がある州でネクサスが成立すると見なされる可能性があります。

経済的ネクサス (Economic Nexus): 2018年の連邦最高裁判決以降に広まった概念です。物理的な拠点がなくても、ある州への年間売上高や取引件数が一定の基準(例:売上10万ドル以上、または取引200件以上)を超えると成立します。

例を挙げると、会社がオレゴン州(免税州)にあり、カリフォルニア州(課税州)の顧客に商品を販売しているとします。カリフォルニア州での年間売上が基準額を超えた瞬間、あなたの会社は「経済的ネクサス」が成立し、カリフォルニア州政府に税務登録を行い、以降のカリフォルニア州向けの売上に対して現地の売上税を徴収・納付する義務を負うのです。

このルールはリモートセラー(遠隔販売者)である日本のB2B企業にも等しく適用されます。つまり、どの州の顧客に、いくら販売したかを正確に記録・管理することが、コンプライアンス上、極めて重要になります。ここで取引記録や顧客情報が一元管理されていないと、どの州でネクサスが成立したかを把握できず、気づかぬうちに納税義務違反を犯してしまう危険性があるのです。

▌よくある質問(FAQs)

Q1. 免税州での売買は本当に消費税ゼロ?

州レベルの一般売上税はゼロですが、100%ではありません。アラスカ州のように市や郡が独自の売上税を課している場合があります。また、ニューハンプシャー州のように、ホテルやレストランでの飲食には特定の税金がかかることもあります。取引の種類と場所を正確に確認することが重要です。

Q2. 州をまたぐ取引の場合はどこで課税される?

原則として、商品の届け先(Destination)の州の税法が適用されます。ただし、課税義務が生じるのは、自社がその届け先の州で「ネクサス」(物理的または経済的)が成立している場合に限られます。ネクサスがなければ、売上税を徴収する義務はありません。

Q3. B2B企業が免税州に拠点を持つ場合、どのようなリスクがある?

最大のリスクは「免税だから大丈夫」という誤った安心感を持ってしまうことです。具体的には、以下の3点が挙げられます。

  1. 経済的ネクサスの見落とし: 他州での売上が増えていることに気づかず、納税義務の発生を見逃してしまうリスク。

  2. 使用税の申告漏れ: 免税州で調達した備品などを課税州の拠点で使った場合の使用税(Use Tax)の納税を忘れてしまうリスク。

  3. 総合的なコスト評価の欠如: 売上税がない代わりに他の税金(所得税、固定資産税など)が高い可能性を考慮せず、トータルでのコストメリットを過大評価してしまうリスク。

これらのリスクを回避するためには、やはり日々の取引データを州ごとに正確に記録し、いつでも分析できる体制を整えておくことが、海外B2Bビジネス成功の第一歩と言えるでしょう。

海外税務コンプライアンスを効率化しませんか?

州ごとの売上・取引件数の可視化、ネクサスのしきい値管理、再販証明の管理まで、実務に即した機能でB2Bチームを支援します。まずは無料デモで体験してください。

無料デモを見る

前の記事: FOB価格の計算方法と貿易用語の実務解説

次の記事: B2B越境ビジネスのためのホリデーシーズン戦略ガイド:重要イベントと体系的アプローチ