CEマーク完全ガイド:EU輸出を目指す日本企業が知るべき全知識
   |    2025-10-20

欧州連合(EU)という巨大市場への扉を開くには、多くの日本企業が「CEマーク」という認証制度と向き合う必要があります。このマークは、単なる記号ではなく、EUの厳格な安全・健康・環境基準を満たしていることの証明です。対象製品にとっては、EU市場への「パスポート」とも言える重要な役割を担っています。

本記事では、EU輸出を目指す日本のB2B企業担当者様に向けて、CEマークの基礎知識から具体的な対応プロセス、実務上の注意点まで、専門的な視点から包括的に解説します。

▌CEマークの基礎知識:EUビジネスに必須の適合性表示とは

まず、EU市場でビジネスを行う上で避けては通れないCEマークの基本的な意味と、その背景にある制度の目的を深く理解することが重要です。

1. CEマークの基本的な意味と目的

CEマークとは、製品がEUの法規制(特に安全、健康、環境保護に関する要求事項)に適合していることを示す適合性表示です。このマークが付された製品は、EU域内での自由な流通が保証されます。

より広い概念として「CEマーキング」という言葉も使われますが、これは製品が法規制に適合していることを証明し、マークを表示するまでの一連のプロセス全体を指します。この制度の目的は、主に以下の3点です。

✅EU域内での製品の自由な流通を促進する。

✅消費者の安全、健康、環境を高度なレベルで保護する。

✅事業者に統一ルールを課し、公平な競争条件を確保する。

「CE」の由来はフランス語の Conformité Européenne(欧州適合)の略という説が有力ですが、EUの公式文書で明確に定義されているわけではありません。また、輸出実務においては、CEマークと酷似した非公式な「China Export」ロゴと誤認しないよう、慎重な確認が求められます。

2. CEマークの歴史と法的根拠

CEマーキング制度の起源は、1985年の「ニューアプローチ議決」に遡ります。これは、加盟国間で異なっていた製品の技術規格が貿易障壁となっている状況を改善するために導入されました。製品の基本的な安全要求事項(必須要求事項)のみを法律(指令)で定め、具体的な技術仕様は整合規格(EN規格)に委ねるという革新的なアプローチです。

現在では、「NLF(New Legislative Framework)」や、CEマーキング対象外の製品にも安全性を求める「GPSR(一般製品安全規則)」といった新しい法的枠組みの下で運用され、制度は進化を続けています。

3. CEマークが必要となる国と地域

CEマークは、EU加盟27カ国での製品販売に必須です。それに加え、EFTA(欧州自由貿易連合)加盟国のうちEEA(欧州経済領域)を構成するアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、そしてEUとの関税同盟を結ぶトルコでも同様に義務付けられています。

一方で、EUを離脱したイギリス(グレートブリテン)では、独自の「UKCAマーク」制度が導入されています。

▌CEマークの対象製品と適用範囲の特定方法

自社の製品がCEマーキングの対象となるか否かを正確に判断することは、コンプライアンスの第一歩です。ここでは、その特定方法と注意点を解説します。

1. CEマークの対象となる主な製品カテゴリ

CEマーキングは、特定のEU指令や規則の対象となる「最終製品」に義務付けられます。部品単体ではなく、市場で消費者に提供される形になった製品が原則的な対象です。

CEマークの対象となる主要製品カテゴリと関連指令/規則

製品カテゴリ関連する主要なEU指令/規則概要
機械類機械指令 (MD)産業用ロボット、工作機械など、可動部を持つ機械全般
電気・電子機器低電圧指令 (LVD), EMC指令, RoHS指令, 無線機器指令 (RED)家電製品、IT機器、スマートフォン、無線モジュールなど
医療機器医療機器規則 (MDR), 体外診断用医療機器規則 (IVDR)診断装置、治療機器、インプラント、検査キットなど
玩具玩具安全指令14歳未満の子供が使用する製品
個人用保護具個人用保護具規則 (PPER)安全ヘルメット、保護メガネ、防護服など
建設資材建設製品規則 (CPR)建築物や土木工事に使用される材料やキット

注意点: 現代の製品は多機能化が進んでおり、一つの製品に複数の指令が同時に適用されることも珍しくありません。例えば、Wi-Fi機能を搭載した産業用機械は、機械指令、EMC指令、無線機器指令(RED)など、複数の法規制をすべて満たす必要があります。

2. 対象範囲の判断における注意点

どの指令が自社製品に適用されるかを正確に判断するのは、製造者自身が負うべき重要な責任です。

原則として、CEマーキングの対象は市場に投入される「最終製品」であり、製品に組み込まれる構成部品単体は対象外となるケースが多くあります。しかし、最終製品の製造者は、その製品に使用する全ての部品が要求事項を満たしていることを保証する責任を負います。

また、特定のEU指令の対象とならない製品でも、EUの「一般製品安全規則(GPSR)」が適用される可能性がある点にも留意が必要です。CEマーキングの対象外だからといって、安全配慮が不要になるわけではありません。

▌CEマークの取得プロセス完全解説

CEマークは、認証機関からライセンスのように「取得」するものではなく、製造者自身が法規制への適合を証明し、その責任において「宣言」するものです。

CEマーキングを完了させるまでの道のりは、体系的なアプローチが求められるプロセスです。

1. 適用されるEU指令・規則の特定製品の設計、用途、機能を分析し、関連する全ての法規をリストアップします。これが全プロセスの土台となります。

2. 必須要求事項と整合規格(EN規格)の確認特定した指令に定められた必須要求事項と、それを満たすための具体的な技術仕様である整合規格を確認します。整合規格の利用は任意ですが、これに準拠すれば必須要求事項への適合を推定できるため、多くの企業が採用しています。

3. 適合性評価の方法を決定製品のリスクレベルに応じて評価方法を決めます。リスクが低い製品では、製造者が自ら評価を行う「CEマーク 自己宣言」が可能です。一方、医療機器など高リスク製品は、第三者認証機関(ノーティファイドボディ)の関与が必須となる「CE認証」手続きが必要です。

4. 製品試験・適合性評価の実施選定した整合規格に基づき、電気安全性試験やEMC試験、リスクアセスメントなどを実施します。自社設備で行うか、外部の専門試験所に依頼します。

5. 技術文書(TCF)の作成製品の設計図、部品リスト、リスクアセスメント報告書、試験レポートなど、適合性を証明する全資料をまとめます。技術文書は、製品の最終製造日から最低10年間保管する義務があります。

6. EU適合宣言書(DoC)の作成製品が関連する全ての指令に適合していることを公式に宣言する法的文書です。製造者自身の名で発行し、責任者が署名します。

7. CEマークの表示全てのステップを完了した証として、製品本体や梱包、取扱説明書に規定の様式でCEマークを表示します。

▌CEマークの適合性評価:自己宣言と第三者認証

適合性評価には、主に「自己宣言」と「第三者認証」の二つのルートがあり、どちらを選ぶかは製品のリスクや適用指令によって決まります。

1. CEマーク 自己宣言のメリットと責任

CEマーキング対象製品の約8割は、製造者自身が適合性を評価し宣言する「CEマーク 自己宣言」方式を採用しています。この方法の最大のメリットは、第三者機関の審査が不要なため、コストを抑え、迅速に市場投入できる点です。

しかし、この手軽さには重大な責任が伴います。自己宣言であっても法的拘束力は第三者認証と変わりません。市場投入後に不適合が発覚した場合、製品回収や罰金など、全ての責任は宣言した製造者が負います。したがって、法規制と技術規格を深く理解し、適切な評価を自社で完結できる能力が前提となります。

2. 第三者認証(CE認証)が必要なケース

医療機器、防爆機器、エレベーターなど、人体や安全へのリスクが高い特定の製品カテゴリでは、EUが指定した第三者認証機関(ノーティファイドボディ)による審査、すなわち「CE認証」が義務付けられています。

注意すべきは、たとえ認証機関から適合証明書が発行されても、それだけでCEマーキングが完了するわけではない点です。最終的な「EU適合宣言書」の作成と署名、そして製品に対する全責任を負うのは、あくまで製造者であるという原則は変わりません。

▌【事業者必見】CEマーク対応の実務と注意点

理論的なプロセスを理解した上で、日本企業が直面する実務的な側面、特にコスト、代理人の選定、失敗例について見ていきましょう。

1. コスト感と期間の目安

CEマーキング対応の費用は、コンサルティング、製品試験、認証機関の審査(必要な場合)、社内人件費などで構成されます。費用と期間は製品の複雑性で大きく変動します。

● 自己宣言の場合: 比較的単純な電気製品であれば、コストは数十万円から、期間は数ヶ月程度が一般的です。

● 第三者認証の場合: 医療機器などでは、コストは数百万円から数千万円、期間も半年から1年以上を要するケースも珍しくありません。

2. EU域内の経済事業者(輸入者・代理人)の役割

EU域外の製造者は、EU域内に「輸入者」または「認定代理人(Authorised Representative)」を設置することが多くの指令で義務付けられています。

● 輸入者: 製品を最初にEU市場に上市する事業者。製品の適合性を確認し、自身の連絡先を製品に表示する義務などを負います。

● 認定代理人: 製造者から書面で委任を受け、規制当局からの問い合わせ窓口となるなど、製造者の代理として特定の義務を遂行します。

3. 日本企業が陥りやすい失敗例と対策

CEマーキングのプロセスで、日本企業が意図せず陥りがちな失敗例があります。

● 適用指令の見落とし: 複数の指令が適用されることを見落とし、一部の試験しか実施しない。

● 文書作成の遅延: 技術文書の作成を後回しにし、当局からの提出要求時に不備が発覚する。

● 規格改訂への未対応: 一度マークを貼付した後、関連規格が改訂されたにもかかわらず、製品や文書の更新を怠り、不適合状態になる。

これらの失敗を避けるには、開発の初期段階からCEマーキング対応をプロセスに組み込むことが最も効果的です。また、自社での判断が難しい場合は、コンサルタントなど外部の専門家をためらわずに活用することが、リスクとコストを最小化する賢明な判断と言えます。

▌CEマークと関連するUKCAマークについて

イギリスのEU離脱(ブレグジット)に伴い、日本企業は「UKCAマーク」にも注意を払う必要があります。UKCA(UK Conformity Assessed)マークは、グレートブリテン(イングランド、ウェールズ、スコットランド)市場に製品を投入する際に必要な適合性マークです。

技術的要求事項の多くはCEマーキングと類似していますが、準拠すべきはイギリス独自の法律であり、手続きも別途必要です。EUとイギリス(GB)両方の市場で販売する場合、原則としてCEマークとUKCAマークの両方を表示する必要があります。最新の規制動向を常に確認することが不可欠です。

▌CEマークに関するよくある質問(FAQ)

Q1: CEマークに有効期限はありますか?

CEマーク自体に有効期限はありません。しかし、製品の設計や主要部品に大きな変更があった場合、または適用されるEU指令や整合規格が改訂された場合は、再度適合性評価を行い、技術文書やEU適合宣言書を更新する必要があります。定期的な見直しが不可欠です。

Q2: 弊社は部品メーカーですが、CEマークは必要ですか?

原則として、CEマークは最終製品に表示されるため、単体の部品には不要な場合が多いです。しかし、最終製品メーカーは使用部品の適合性を確認する責任があるため、貴社に適合データや証明書の提出を求めることがあります。また、無線モジュールのように、部品自体が特定の指令の対象となる場合は、部品単体でのCEマーキングが必要です。

Q3: 自己宣言でCEマークを付けた後、第三者機関の認証を追加で受けることはできますか?

はい、可能です。法的に必須でなくても、取引先の要求や市場での信頼性向上のため、自主的に第三者認証機関の評価を受ける企業は多くあります。これは、CEマーキングの自己宣言の信頼性を補強する有効な手段となり得ます。

Q4: CEマークがない製品をEUに輸出するとどうなりますか?

CEマーキングが義務付けられた製品にマークがない場合、まず税関で輸入が差し止められる可能性が非常に高いです。万が一、市場で不適合が発覚した場合、販売停止、製品回収、高額な罰金、悪質なケースでは刑事罰の対象となる可能性もあります。コンプライアンス違反は極めて高いビジネスリスクを伴います。

▌まとめ:CEマークを正しく理解し、EUビジネスを成功へ

CEマークはEU市場における「安全のパスポート」であり、その適合性を証明する責任は、原則として製造者自身が負う「自己宣言」が基本です。この制度は、単にマークを貼る作業ではなく、法規制の正確な理解、厳格な評価、継続的な管理が求められる複雑な取り組みです。

この挑戦を成功に導く鍵は3つあります。

● 早期の段階からCEマーキングをプロセスに組み込むこと。

● 適用指令や整合規格の改訂など、正確な情報を常に収集し続けること。

● 専門家の活用をためらわないこと。

CEマーキングのプロセスは確かに複雑ですが、その要求事項を一つひとつ着実にクリアすることで、巨大で魅力的なEU市場への扉は確実に開かれます。本記事が、貴社のグローバル戦略を推進するための一助となれば幸いです。

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