インコタームズとは?DAP・DPU・DDPの違いをわかりやすく解説
   |    2025-09-15

国際貿易を行う上で、「インコタームズ」という言葉を耳にしたことがある方は多いでしょう。しかし、その意味や具体的な条件の違いを正確に理解しているでしょうか?特に、売主の負担が大きいDグループ(DAP, DPU, DDP)は、買主にとっては有利な条件ですが、その違いを把握しておかないと予期せぬトラブルにつながる可能性があります。

この記事では、貿易実務の専門家が、インコタームズの基本から、最新版であるインコタームズ2020のDグループの各条件の違い、契約時の注意点までを、わかりやすく徹底的に解説します。

▌インコタームズとは?

1. インコタームズの意味・注意点

インコタームズ (Incoterms) とは、国際商業会議所(ICC)が制定した貿易取引条件の解釈に関する国際規則です。その主な目的は、売主と買主の間で発生する役割分担を明確にすることです。

  • コスト(費用負担)の範囲:国内から国外へ貨物を輸出するに生じる運送料をはじめ、保険料、通関費用などをどちらが負担するか。

  • リスク(危険負担)の分岐点:貨物の損失や損傷のリスクが、どの時点で売主から買主へ移転するか。

▼注意点:

インコタームズは法律や条約ではないため、自動的に適用されるわけではありません。貿易契約書に「FOB Tokyo Port, Incoterms® 2020のように、適用する条件、場所、そしてバージョンを明記して初めて効力を持ちます。また、インコタームズは貨物の所有権の移転時期や代金の支払条件については規定していません。これらは別途、売買契約書で定める必要があります。

2. インコタームズ2020版の新たな変化

インコタームズは貿易実務の変化に合わせて約10年ごとに改訂されます。2010年版ではDグループの四つの条件が整理された点が主な変更点です。そして、2020年版の主な改訂ポイントは、DAT(Delivered at Terminal/ターミナル持込渡し)がDPU(Delivered at Place Unloaded/荷卸込持込渡し)に置き換えられた点です。この改訂では、売主と買主の責任範囲を示す表示順序を再構成し、条項の体系的な整理が行われました。これらの変更は、国際物流業務における解釈の曖昧性を排除し、取引の透明性を高めることが目的です。

インコタームズ2000版・2010版・2020版の変化

3. インコタームズ2020の四つのグループ

グループ意味詳細特徴
EグループEx Works (工場渡し)EXW売主(輸出者)の負担が最も小さい。
FグループFree (運賃買主負担)FCA, FAS, FOB売主は買主が指定した運送人に貨物を引き渡すまで責任を負う。
CグループCost/Carriage (運賃売主負担)CFR, CIF, CPT, CIP売主は仕向地までの運賃を負担するが、危険負担は船積み・引渡し時点で移転する。
DグループDelivered (仕向地持込)DAP, DPU, DDP売主の負担が最も大きい「到着条件」。

▌DAU・DPU・DDPの特徴と各条件の違い

Dグループ(DAP・DPU・DDP)は、売主が輸入国の指定された目的地まで貨物を届けるまでの費用と危険の大部分を負担する「到着条件」です。買主にとっては、国内取引に近い感覚で商品を受け取れるため、貿易に不慣れな場合に好まれます。一方で、売主は輸入国での輸送手配や規制に関する知識が必要となります。

1. DAP (Delivered at Place / 仕向地持込渡し)

  • 売主(輸出者)の負担: 指定仕向地までの運送費用、輸出通関手続き、輸送中のリスク。

  • 買主(輸入者)の負担: 指定仕向地での荷卸し費用、輸入通関手続きと関税・その他税金の支払い。

  • ポイント: 危険と費用の負担は、貨物が目的地に到着し、いつでも荷卸しできる状態になった時点で買主に移転します。

2. DPU (Delivered at Place Unloaded / 荷卸込持込渡し)

  • 売主の負担: 指定仕向地までの運送費用、輸出通関手続き、輸送中のリスク、そして指定仕向地での荷卸し費用とリスク。

  • 買主の負担: 輸入通関手続きと関税・その他税金の支払い。

  • ポイント: DAPとの最大の違いは「荷卸し作業の責任と費用が売主にある」という点です。あらゆる輸送形態で利用できます。

3. DDP (Delivered Duty Paid / 関税込持込渡し)

  • 売主の負担: 指定仕向地までの運送費用、輸出通関手続き、輸送中のリスク、輸入通関手続きと関税・その他税金の支払い。

  • 買主の負担: 指定仕向地での荷卸し費用(ただし、契約で別途定めることも可能)。

  • ポイント: 買主は国内で商品を購入するのとほぼ同じ感覚で受け取れますが、売主は輸入国の通関制度や税制に精通している必要があります。

4.DAP・DPU・DDPの比較まとめ

条件費用・危険負担の移転時点荷卸し責任輸入通関・関税負担売主の負担レベル
DAP仕向地で荷卸し準備ができた時買主買主
DPU仕向地で荷卸しが完了した時売主買主
DDP輸入通関後、仕向地で引渡す時買主売主最大

▌貿易条件を契約する際の注意点

1.バージョンと場所の明確化: 「DAP Tokyo Big Sight, Incoterms® 2020」のように、適用バージョンと具体的で詳細な場所を必ず記載しましょう。

2.取引実態との整合性: 売主が輸入国での物流手配や通関に不慣れな場合、DDPは大きなリスクを伴います。自社の対応能力に見合った条件を選択することが重要です。

3.フォワーダーとの連携: Dグループで輸出する場合、輸入国側でスムーズに手配を行える信頼できるフォワーダー(輸送業者)との連携が不可欠です。

▌FAQ

Q1: インコタームズDAPとはどういう意味ですか?

DAP(Delivered at Place / 仕向地持込渡し)とは、売主が指定された目的地まで商品を運ぶ責任を負う条件です。ただし、目的地での荷卸し作業と、輸入通関および関税の支払いは買主の責任となります。

Q2: DAPの費用は誰が負担するのですか?

費用負担は分かれています。

  • 売主負担: 輸出国内の輸送費、輸出通関費用、仕向地までの国際輸送費など。

  • 買主負担: 仕向地に到着した後の荷卸し費用、輸入通関費用、関税、その他輸入にかかる税金など。

Q3: DAPとDDPの違いは何ですか?

最も大きな違いは「輸入通関手続きと関税支払いの義務がどちらにあるか」です。

  • DAP: 輸入通関と関税支払いは買主の負担です。

  • DDP: 輸入通関と関税支払いは売主の負担です。DDPは売主の負担が最も重い条件となります。

Q4: DDU条件は何ですか?取引は可能ですか?

売主(輸出者)が輸入国の指定場所まで商品を輸送して引き渡す責任を負い、買主(輸入者)が輸入時にかかる関税や輸入国の税金の支払いなどの責任でを負う貿易条件です。

「DDU(Delivered Duty Unpaid)/仕向地持込渡し(関税抜き)」は、インコタームズ2000で定義されていた条件であり、責任範囲の不明確さによりインコタームズ2010以降では公式には廃止されています。そのため、DDUを新たに利用することは、一般的には推奨されません。しかし、インコタームズは法律ではなく、取引当事者間の合意に基づく規則で、理論上はDDUを使用した取引は可能です。

もしDDUを選択する場合、取引の内容や責任範囲が誤解されないように契約書で詳細を明記し、取引の相手側がDDUについて十分な理解を持っているかどうかを慎重に確認することが重要です。

国際貿易のリスクを軽減できるように

インコタームズのDグループを正しく理解し、契約を最適化しましょう。海外展開特化型CRMのサポートで、トラブルのない貿易実務を実現できます。

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