「営業成果が担当者によってバラバラ」「トップセールスのノウハウが共有されず、チーム全体の底上げができない」「案件の進捗が不透明で、適切なアドバイスができない」こうした悩みを抱える営業マネージャーや経営者の方は少なくありません。その根本的な原因は、営業プロセスが個人の「勘、経験、度胸(KKD)」に依存し、ブラックボックス化していることにあります。
この記事では、属人化を防ぎ、組織全体の営業力を強化するための鍵となる「営業プロセスの可視化」について、そのメリットから具体的な標準化のコツ、すぐに使えるテンプレートまでを徹底的に解説します。
営業プロセスとは?
営業プロセスとは、見込み顧客(リード)を発見してから、商談を経て受注し、アフターフォローに至るまでの一連の営業活動プロセスの流れを指します。
具体的には、以下のようなステップで構成されるのが一般的です。
リード獲得: 展示会、Webサイト、広告などから見込み顧客の情報を獲得する。
アプローチ: 電話やメールで接触し、アポイントメントを獲得する。
ヒアリング: 顧客の課題やニーズを深く理解する。
提案・見積: 課題解決のためのソリューションを提案し、見積を提示する。
クロージング: 契約条件を交渉し、受注に至る。
アフターフォロー: 納品後のサポートやアップセル・クロスセルの提案を行う。
従来、これらの活動は個々の営業担当者の裁量に任されがちでした。しかし、市場の成熟化や顧客ニーズの多様化に伴い、データに基づいた科学的なアプローチが求められるようになっています。そこで重要になるのが、この営業プロセスを組織全体で定義し、可視化・標準化することなのです。
営業プロセス可視化のメリット
なぜ営業プロセス見える化が重要なのでしょうか。それによって得られる5つの主要なメリットを解説します。
1. 進捗状況を明確化
プロセスを可視化することで、各案件がどの段階にあるのかを誰もが一目で把握できるようになります。これにより、進捗が滞っている「ボトルネック」を早期に発見し、対策を講じることが可能です。マネージャーは客観的なデータに基づいて的確な指示を出せるようになり、チーム全体の進捗管理が格段に容易になります。
2. 属人的な営業からの脱却
優秀な営業担当者のスキルや成功パターンを組織の資産に変えます。営業プロセスの見える化は、これを実現します。トップセールスの行動や判断基準を分析し、標準プロセスに組み込むことで、チーム全体のスキルを底上げできます。特定の個人に依存する体制から脱却し、安定した組織運営と質の高い営業活動を維持することが可能になります。
3. 効果的な営業パターンの発見
可視化されたデータは、成功の法則を導き出すための宝の山です。どのようなアプローチが受注に繋がりやすいのか、どの段階で失注するケースが多いのかといった「勝ちパターン」や「負けパターン」を分析できます。この知見を基に営業活動プロセスを最適化し、成約率を向上させることができます。
4. 営業プロセスの課題発見と改善
「提案の質が低い」「クロージングが弱い」といった漠然とした課題感ではなく、「ヒアリング段階での課題特定率が低い」「初回提案からクロージングまでの期間が他チームより長い」など、データに基づいた具体的な課題を発見できます。原因を特定し、改善策を実行し、その効果を測定するというPDCAサイクルを回しやすくなるのです。
5. 生産性向上
上記1〜4の結果として、営業チーム全体の生産性が飛躍的に向上します。無駄な活動が削減され、営業担当者は価値の高いコア業務に集中できます。また、新人や経験の浅いメンバーも標準化されたプロセスに沿って行動することで、早期に戦力化し、教育コストの削減にも繋がります。
【例つき】営業プロセス標準化のコツとテンプレート例
営業プロセスの標準化を成功させるには、いくつかのコツがあります。
現状を洗い出す: まずは現在の営業活動をすべて書き出し、全体像を把握します。
顧客視点で考える: 顧客が商品を購入するまでの心理や行動の変化にプロセスを合わせます。
シンプルに保つ: 細分化しすぎると形骸化します。誰もが理解し、実行できるシンプルな設計を心がけましょう。
ツールを活用する: CRM/SFAツールを使えば、プロセスの管理、データの蓄積、分析が効率的に行えます。
ここでは、OKKI CRMのようなCRM/SFAツールで設定できる営業プロセスフロー図のテンプレートを、ビジネスモデル別にいくつかご紹介します。
1. 基本的な営業プロセス
進行中・受注・失注の三つの段階に分けられる多くのBtoBビジネスで適用できる最も標準的なフローです。そして、具体的な営業フェーズの獲得率を記入することで、成約確度をよりよく把握できます。必要に応じて、各ステージごとに「受注アドバイス」を記載することも可能です。これにより、会社内部のノウハウを蓄積・整理することができ、新人社員でも迅速に顧客とのコミュニケーションのコツを習得し、業績向上につなげることができます。
2. カスタム営業プロセス
商材の特性や収益計上のタイミングに合わせて、プロセスをカスタマイズすることが重要です。
① 即納可能商品向けの販売フロー
最小限の実行可能なステップに基づいて設計されたスピード重視の営業モデルです。 重要な営業ステージのみを管理し、短期間で素早く成約まで持ち込むことを目的としています。 テンポが速く、細かなステップ管理は行わず、シンプルで扱いやすい特性があり、商談件数が多く、営業サイクルが短いが、重要案件はきちんと記録しておきたい企業に適しています。
② カスタム商品・手付金の入金をもって業績計上(簡単に管理)
カスタム商品の販売プロセスに応じて設計されており、重要な販売ステップのみを簡素化して記載し、全体の流れがシンプルで使いやすい構成です。業績の計上基準が「手付金の入金」である企業には、この商談テンプレートの使用をおすすめします。
③ カスタム商品・手付金の入金をもって業績計上(細かく管理)
カスタム商品の提案顧客の細やかなプロセス管理を行うための商談テンプレートです。 業績は「手付金の入金時」に計上し、販売プロセスの各ステップを細かい粒度で管理できるため、 全体の進捗状況が一目瞭然。状況の把握やチーム間の共有もスムーズに行えます。
④ 問い合わせの質に応じて分類する
このテンプレートは、問い合わせの質と規模に応じて商談を分類・管理したい場合に最適です。 特に、質の高い(=本気度・成約可能性が高い)問い合わせに対して重点フォローを行い、 大口案件の受注確率を高めたい管理者・営業チームにご活用いただけます。
⑤ 残金の入金をもって業績を計上
このテンプレートは、一般的なB2B・カスタム商品の販売フロー(問い合わせ → 見積 → サンプル → PI → 手付金 → 出荷)に沿った運用を前提としており、最終支払い(残金)の入金をもって業績計上する企業向けに設計されています。
営業プロセス管理の流れ
プロセスを定義しただけでは意味がありません。継続的に営業プロセス管理を行い、改善し続ける仕組みが必要です。
1. 現状の営業プロセスを洗い出す
まずは、チームのメンバーにヒアリングを行ったり、過去の商談データを分析したりして、現在の営業活動プロセスを詳細に書き出します。トップセールスと平均的なメンバーの動きを比較すると、改善のヒントが見つかりやすくなります。
2. 各ステップの目標とKPIを設定する
可視化したプロセスの各ステップに、具体的な目標(KGI)と計測可能な指標(KPI)を設定します。
KGI(最終目標): 四半期の受注金額 5,000万円
KPI(中間指標):
リード獲得数: 300件/月
アポイント獲得率: 20%
商談化率: 80%
受注率: 25%
平均受注単価: 100万円
3. 商品別に営業プロセスを設定する
高額なカスタム商材と低単価のパッケージ製品では、最適な営業プロセスは異なります。商材の特性やターゲット顧客に合わせて、複数のプロセスを設計・運用することが重要です。
4. 定期的に進捗を確認する(管理者)
管理者は、CRM/SFAツールなどを活用して、チームや個人のKPI達成状況を定期的に確認します。週次や月次のミーティングでレビューを行い、進捗が遅れている担当者には具体的なアドバイスを与え、プロセス自体の見直しが必要であればチームで議論します。この「データに基づくレビューと改善」のサイクルを回し続けることが、営業プロセス管理の最も重要なポイントです。